妹の子供が、まだ小さかった頃の話です。
妹の子供が生まれてから、我が家の両親は、毎日のように妹に電話をしていました。
妹の嫁ぎ先は、実家からは飛行機でないと行けない距離でしたから、なかなか簡単には会えません。
ですので、両親はしょっちゅう電話をしては、赤ちゃんの「んまんま、ばぶばぶ」みたいな声を聞くのを楽しみにしていたのです。
夏休みも近くなったある日のこと。
「あなたたち、夏休みにはこっちに来ないの？赤ちゃん連れて遊びにいらっしゃいよ」と母が言うと、
妹は、「ダンナの休暇の予定がまだはっきりしなくて。決まったら、すぐ知らせるから」と言っていました。
そして数日後、妹から電話がありました。
「こっちはすごく暑いよ。そっちはどう？」
「そうねえ、今日は少し過ごしやすいかな？」などといつものように雑談をしながら、
赤ちゃんのおしゃべりを聞かせてもらって、母は電話を切りました。
と、それから30分ほどして、「ピンポン」と玄関のチャイムが鳴りました。
母が玄関先に出てみると、なんと、妹が赤ちゃんを抱いて立っていたのです。
「ええっ、ちょっと、どういうこと？」
母がびっくりしてたずねると、妹は、
「実はさっきの電話は、空港からかけてたの。あれからすぐタクシーに乗ってきたの」とにっこり。
「とつぜん来て、驚かせてやろうと思って」という妹から、
赤ちゃんを抱っこさせてもらって、母は、もう目じりが下がりっぱなし。
「夏休みは混むし、航空料金も高いでしょう？
少しでも安くて空いてる平日に、私たちだけでも先に来ようと思って」
と話す妹に、
「お母さんたちが出かけてたら、どうするつもりだったの？」と後で私が聞くと、
「お父さんもお母さんも持病があるから、遠出はしないってわかってたし、
実は前から、今日の予定は確認済みだったの。空港からの電話は最終確認よ」…と、
妹はちゃんと、しっかり計画を立てていたのでした。
そして両親は、サプライズでやってきた孫との数日間を、存分に楽しんでいました。